自己開示とはなにか
自己開示では「事実」、「自己との結びつき」、「感情」の三つをセットで伝えると伝わりやすいです。例えば、僕は革靴の靴磨きが趣味です。とはいえ「僕の趣味は靴磨きです」だけでは、相手は「ふーん」以外リアクションすることはなかなか難しいです。これは、「事実」しか伝えていないため、引っかかりが少なすぎるのが原因です。ではこれを次のように伝えてみたらどうでしょうか。
「趣味は靴磨きです。元々頭の中を整理するのが苦手で、ずっと考えがぐるぐる回ってしまう性格なんですが、靴磨きをしているときはそういった頭の中のモヤモヤを忘れてすっきりリセットすることができるんですよね。よく、サウナとか運動とかするひとがいると思うんですけど、それと同じですね。ただ僕は、何かをきれいにする、整理する、直すといったことが結構好きだったので、靴磨きが一番合っていました。」
事実(靴磨きが趣味)、自己との結びつき(考えすぎてしまう性格)、感情(整理整頓が好き)を組み合わせて伝えてみました。人間としての奥行きがだいぶ想像できるようになったと思います。いろいろなところに引っかかりができたので、聞き手としても印象に残りやすく、次に話すときの話題につながりやすくなります。
リスクをとる
自己開示では「事実」、「自己との結びつき」、「感情」をバランスよく伝えるだけでは不十分です。例えば次のような文章を見てみましょう。
「子供がいます。毎日一緒にお風呂に入るのですが、今日あったことをお互いに話します。どんどん成長していく姿や自分と似た仕草をするようになったとき、幸せな気分になります。」
事実(子供がいる)、自己との結びつき(自分と似た仕草)、感情(幸せな気分)がバランスよく含まれていますが、なんか物足りなくないですか?どこかで聞いたことがある話というか。。
何が足りていないのかは、自己開示をする目的を考えると見えてきます。自己開示をすることで得たいものは安心感です。個人対個人であれば信頼関係、集団においては心理的安全性、個人対集団においては帰属意識、そういった安心感を得たいがために自己開示をするわけです。では、安心感はどのようにして得られるのでしょうか。それは、自分の弱いところ、脆いところ、醜いところを相手にさらし、脆弱なところもひっくるめて受け入れてもらうことで得られます。
つまり、自己開示では相手を驚かせたり、がっかりさせたりするかもしれないと、自分がドキドキするようなことをリスクをとって伝えなければ、安心感は得られず、自己開示はうまくいかないのです。
先ほどの例に照らし合わせてみると、子供と過ごす幸福感を開示するとき、相手の反応が気になってドキドキする人は少ないでしょう。まず間違いなく好意的な反応を返してくれるでしょう。つまりこの開示はリスクをとっていないです。
リスクをとるには、程度が大きい話をする方法と解釈を相手に委ねる方法の二つがあります。
程度が大きい話とは、事実が重大か意外である話、自己との結びつきが非常に深い話、感情が大きく揺さぶられた話などです。すべての要素でリスクをとる必要はありません。しかし、少なくとも一つの要素で相手の想定を超えるリスクをとるといいと思います。
解釈を相手に委ねる方法はちょっとわかりづらいので、解釈を相手に委ねない例を見てみましょう。
「大人数の飲み会が苦手です。人の話が聞き取りづらく、人がひっきりなしに変わるので深い話もできずに、逆に孤独感を感じてしまうからです。だから、そういう飲み会には参加しないことにしています。」
事実(大人数の飲み会が苦手)、自己との結びつき(深い話ができない)、感情(孤独感)の三要素が含まれていますが、最後に「飲み会に参加しない」と自己完結させています。自ら解釈を提示すると、これを受け取る相手の解釈の余地を大きく制限してしまいます。こうなるとリスクは下がりますが、安心感を得られるかというと、予防線を張った発言なので十分とは言えないと思います。
次のような内容であれば、リスクが高まり、自己開示がより深くなります。
「大人数の飲み会が苦手です。人の話が聞き取りづらく、人がひっきりなしに変わるので深い話もできずに、逆に孤独感を感じてしまうからです。でもいろいろな人と交流したい気持ちはあるので、どうしたらいいのか日々悩んでおります。」
最後まで自己完結せずに相手に解釈を委ねることで、リスクを上げることができます。
リスクに報いる
自己開示とは開示者と受容者の双方向の活動です。開示者がいくらリスクをとって開示したとしても、受容者がそれを受け止めなければ自己開示としては失敗となります。そのため、自己開示では開示するのと同じくらい受け入れる態度も重要になります。
自己開示を受け入れるとはどういうことでしょうか。それは開示された内容に対して、共感を示し、相手の幸福を気にかける態度で応答することです。
共感とは、相手の発言を肯定することではありません。なぜそのように考え、行動するのかを、一つ一つ順を追って説明できるまで相手の発言を深く理解することです。そのためには「事実」、「自己との結びつき」、「感情」の欠けている要素を聞いてみる必要があるでしょうし、本人が気づいていないことまで深掘りしてみる必要もあるかもしれません。
共感するだけでは開示者からしたら、受容者がどう受け取ったのかわからず、不安なままです。そこで受容者は相手の幸福を気にかける態度で応答する必要があります。相手の幸福を気にかける態度とは非常に抽象的ですが、アドバイスしたり、評価したりせず、内容をそのまま受け取り、開示者がより安心できるように、何を提供できるかを真摯に考えることです。